第89章

一ノ瀬蓮は私を見据えた。深い瞳は光を失ったみたいで、そこから感情を読み取ることができない。

黙られるほど、胸の奥がきゅっと縮む。

「一ノ瀬さん……怒って、ないですよね?」

探るように、恐る恐る口にした。

けれど次の瞬間、端正な顔にふっと笑みが浮かび、その視線が一気に獲物を狙うみたいに鋭くなる。

一ノ瀬蓮が半歩、こちらへ詰めた。道を完全に塞がれたわけじゃないのに、逃げ場が消えたような恐怖が背中を這う。

「わ、私が悪いです! 口が滑りました!」

反射的に頭を下げた。これ以上近づかれたくなくて。

いきなり手首を掴まれる。引き寄せられ、一ノ瀬蓮が身を屈めて私を覗き込んだ。瞳の奥に――...

ログインして続きを読む