第1章
午前二時。私はリビングのソファに寝そべり、テレビ番組を見ているふりをしていた。本当は、佐藤健一の帰りを待っていただけだったけれど。
これは、どう考えても普通じゃなかった。
四ヶ月前、佐藤家が私の幼い頃の婚約を再開させようと申し出てきたとき、私は自分のことを賢いと思っていた。エンタメメディアの帝国と医療業界の巨人との結婚――佐藤家の資金援助で川田映像は負債危機から脱し、健一と私はそれぞれ必要なものを手に入れる。完璧な事業救済計画だと思った。
佐藤健一の人生に再び足を踏み入れながらも、比較的独立した自由を維持する。我ながら天才的な一手だと思っていた。
裏庭で私と一緒に蛍を捕まえていたあの小さな男の子が、今やL市で最も有名な心臓外科医になっているのだから。時間というのは、本当に不思議なものだ。
なのに、私はすべてをめちゃくちゃにしてしまった。
なぜなら、大人になった佐藤先生は、私が想像していた一万倍も危険な男だったからだ。
あからさまな危険さじゃない。むしろ、この上なく巧妙で、致死的な魅力なのだ。
例えば、朝六時起きの習慣――ベッドから出るのに母親に三度も呼ばれる必要があった健一はもういない。一度、ジムから帰ってきた彼を偶然見てしまったことがある。汗でびっしょりと濡れたチャコールグレーのコンプレッションシャツが、引き締まった胸に張り付いていた。
彼がシャツの裾を持ち上げて顔の汗を拭った時、完璧なVシェイプの腹筋があらわになって、私は階段から転げ落ちそうになった。それなのに彼は、自分がどれほど破壊的な光景を生み出したのかまったく気づかない様子で、「おはよう、薫」とだけ言って、シャワーを浴びるために二階へ上がっていった。
誕生日プレゼントを渡すだけで顔を赤らめていた男の子が、今では落ち着き払って、私に視線をよこすことさえほとんどない。
白衣の袖を無造作にまくり上げる姿がどれほどセクシーかなんて、彼は知らない。医学雑誌に没頭している時の横顔がどれほど完璧かなんて、彼は知らない。そして、ごく稀に見せる無防備な優しさが、どれだけ私の心臓を跳ねさせるかなんて、彼はまったく知らないのだ。
佐藤健一は、抑制された欲望を体現した、まるで歩く教科書のような男だった。無意識の仕草の一つ一つが静かな誘惑となり、しかも本人はそれに全く気づいていない。
そこが、彼のどうしようもなく危険なところだった。
まったく、いつから私はこんな恋に悩む若者みたいになってしまったんだろう。子供の頃は、ただの本の虫だと思っていたのに。
ガレージのドアがゴロゴロと音を立てて開き、私の心拍数が一気に跳ね上がった。
しっかりしなさい、薫。あなたはただの契約妻。契約条件を思い出すのよ。
私は急いでキッチンへ向かい、コーヒーの準備を始めた。健一が今好むのは、砂糖なしのブラックコーヒー。マシュマロを山ほど入れたホットチョコレートを飲んでいた少年とは、まったくの別人だ。
「遅いじゃないか」――玄関の方から聞こえてきた健一の声は、明らかに驚きを含んでいた。
振り返った瞬間、すべての理性的な思考が崩れ去った。
彼はネクタイを緩めている。その長い指が、巧みな手つきで結び目を解いていく。金縁の眼鏡はまだ鼻梁にかかったままで、白衣は肩に無造作にかけられ、ネイビーのスクラブが彼の身体に完璧にフィットしている。
子供の頃のひょろっとした本の虫が、こんな男になるなんて。
どうして医療用の制服って、こうも不公平なほど魅力的なんだろう。
歩み寄って彼の眼鏡を剝ぎ取りたい。大理石のカウンタートップに彼を押し付けたい。契約なんてくそくらえだと、彼に告げたい。
「眠れなかっただけ」――私はなんとか声を平静に保ちながら、そう答えた。「手術、どうだった?」
健一は手術器具を扱うかのような精密さで眼鏡の位置を直したが、その瞳に一瞬宿った温かさを、私は見逃さなかった。「小児心臓修復術だ。八歳の患者で、結果は成功」
彼は言葉を止め、声のトーンを和らげた。「私のために起きて待っている必要はないんだぞ、薫」
その瞬間、私がちゃんと食事をしたか心配してくれていた頃の健一の面影が見えた気がした。
仕事の報告でさえセクシーで、その気遣いはあまりにも優しい――この男は、私を殺すつもりなのだろうか?
コーヒーを差し出すと、私たちの指が偶然触れ合った。
電流が身体を駆け抜け、私はマグカップを落としそうになった。
健一の指が一瞬止まり、それからカップを受け取って一口飲んだ。「完璧な温度だ。ありがとう」
彼の視線が、いつもより三秒長く私の顔に留まった。
そして、彼は二階へ上がって行った。
ただ、それだけ。
仕事の報告、優しい気遣い、コーヒー、あの視線、おやすみ。
私は心臓を激しく鳴らしながらキッチンに立ち尽くし、すべての細部を再生していた。
気のせいじゃ、ないよね? 彼の視線も、気遣いも、あの一瞬の間も。
主寝室に戻り、キングサイズのベッドの上で何度も寝返りを打った。
隣の書斎からキーボードを打つ音が聞こえてくる――健一がメールに返信しているのだ。おそらく症例の検討か、医学雑誌への投稿だろう。あの仕事人間は決して休まない。
そのリズミカルなタイピング音を聞きながら、彼が眼鏡をかけて真剣に仕事をしている姿を想像し、あの優しい眼差しを思い出すと、心臓の鼓動はさらに激しくなった。
午前三時。私はすっかり目が覚めていた。
もう自分のルールを破ってしまったのだから。この男にどうしようもなく心を奪われてしまったのだから。確かめなければならなかった――
彼は、ほんの少しでも何かを感じているのだろうか? それとも、これはただの幼馴染としての丁寧な親しみなのか?
私はスマホを掴み、計画を立て始めた。
調査の段階 佐藤健一医師
・「偶然の」遭遇を増やす
・微細な表情とボディランゲージを分析する
・戦略的な思いやりのジェスチャー――反応を測定
・もっともらしい否認の可能性を維持する
正気の沙汰じゃない。私は自分の契約上の夫を誘惑する計画を立てているのだ。
隣室からまた微かな物音が聞こえてきた――医療ファイルでも見直しているのだろうか? 彼は一体いつ休むのだろう。
「明日から」と私は天井に向かって言った。「佐藤健一医師、あなたが本当に私に何も感じていないのか、それとも意図的に距離を置いているのか、試させてもらうわ」
ちょうどその時、書斎が静かになった。
そして、バルコニーに向かう足音が聞こえた。
私は床から天井まである窓に忍び寄り、カーテンの陰に慎重に隠れて外を覗いた。
月明かりの中、健一が隣のバルコニーに立っていた。シンプルなグレーのTシャツに着替え、手すりに両手をついてL市のスカイラインを眺めている。
どうして、休んでいる姿さえこんなに魅力的なのだろう?
何を考えているんだろう? 明日の手術のスケジュール? それとも……
彼に覗き見しているのがバレるのが怖くて、私は息を止めた。でも、目を離すことができなかった――月光の下の健一はとても孤独に見えて、まるで裏庭で一人星を眺めていたあの頃の少年のようだった。
数分後、彼は伸びをして、中へ戻ろうと向きを変えた。
彼がバルコニーのドアを閉めた瞬間、私のいる方を見た気がした。
私は心臓をドキドキさせながら、素早く後ろに下がった。
あの光景は、ほとんど私を殺しかけた。
明日、私の検証が正式に始まる。
佐藤健一、彼が本当に感情のない医療機械なのか、それともただ幼い頃の約束を守っているだけなのか、見つけ出してやる。
もし答えが違うのなら、少なくとも私は試したことになる。
もし答えが正しいのなら……
その時は、私たち二人とも厄介なことになる。
なぜなら、一度その契約のラインを越えてしまったら、もう後戻りはできないのだから。
でも正直なところ、私はもう自制心の限界をとっくに超えていた。
幼馴染だろうが、契約結婚だろうが――私は答えを知る必要があった。
どんな代償を払ってでも。
