第2章

 午前六時。床から天井まである窓から金色の朝日が差し込み、大理石のキッチンカウンターを暖かく照らしていた。私はわざといつもより二時間早く目を覚まし、シルクのローブを身にまとって、キッチンを忙しなく動き回っていた。

 昨夜の午前三時に思いついた突飛な計画のせいで一睡もできず、月明かりの下、バルコニーに立っていたあのシルエットが頭から離れない。彼が去り際に私に向けた最後の一瞥は、一体どういう意味だったのだろう?

 今日から、『調査の段階 佐藤健一医師』の第一日目が始まる。

 健一が毎朝きっかり六時半に階下へ下りてくることは知っている。

 探りを入れるなら、徹底的にやらなければ。

 コーヒーメーカーが静かな唸りを上げる中、私はわざと屈み込み、下の戸棚から健一がいつも使っている白いマグカップ――昨夜もコーヒーを飲むのに使っていた、まさにそのカップ――を取り出した。シルクのローブが私の動きに合わせて優雅に揺れ、体の曲線に寄り添い、白い脚をちらりと覗かせる。

 階段から足音が響いてきた。

 心拍数が一気に跳ね上がったが、私は平静を装い、ゆっくりとカップを取り出す動作を続けた。

「おはよう」背後から聞こえてきた健一の声は、寝起き特有の深く、掠れた響きを帯びていた。

 振り返ると、シルクの生地が朝の光を受けて柔らかくきらめいた。「おはよう。コーヒー、いるかと思って。昨夜も遅くまで仕事だったの?」

 健一はキッチンの入り口に立っていた。彼の茶色の髪はまだ無造作で、白いカジュアルなTシャツ姿は、普段よりも真面目さを感じさせない。でも、彼の体が目に見えてこわばったのが分かった。

 ああ、なんてこと。寝起きの彼は、たまらなく魅力的だ。

「ありがとう」彼の声は強張っていた。「いつもは自分でやるんだが」

 彼の反応に気づいた――視線が私の上に留まったのは三秒足らずで、すぐに逸らされた。でも、その三秒間に、私は見た……一体、何を?

 困惑? 不快感? それとも、ただ単に私のローブ姿がこの状況に不適切だと感じただけ?

「夫婦なんだから。あなたの世話を焼くのは、私の役目でしょう」私はわざと一歩近づき、湯気の立つコーヒーカップを彼に差し出した。

 距離が60センチほどに縮まったとき、彼から漂うミントのボディソープの微かな香りと、喉仏がかすかに動くのが見えた。この近さに私自身も緊張したが、最後までやり遂げなければ。

 健一は指が触れ合うのを意図的に避けながら、コーヒーカップを受け取った。「病院に行かないと」

 そう言うと、彼はキッチンから逃げるように去っていった。

 慌ただしく立ち去る彼の背中を見送りながら、私の心はかき乱されていた。

 あれはどんな反応? 嫌悪感? それとも、私が一線を越えたと感じただけ?

 今夜、もう一度試してみることにした。

 午後十一時。健一の書斎はまだ煌々と明かりが灯っていた。

 おにぎりと温かい味噌汁を乗せたお皿を手に、私はそっと彼の部屋のドアをノックした。「健一?」

「入っていいよ」彼の声には疲労の色が滲んでいた。

 ドアを開けると、彼はデスクに向かっていた。机の上には医学書や論文が散乱し、ワイヤーフレームの眼鏡がデスクランプの光を反射している。仕事に没頭するその姿に、また心臓が不規則に脈打った。

「いつもお仕事に集中してばかりで、倒れてしまうよ」私は彼の前にトレーを置き、わざと身を乗り出してデスクの上の書類を整理するふりをした。

 この角度からなら、私の胸元が少し開いているのが分かるはずだ。

 健一は眼鏡を押し上げ、一つ咳払いをした。

 この小さな仕草の意味は? ただの癖、それとも居心地が悪いから?

「大丈夫だ。君はもう休んだ方がいい」いつもより低い声で、まだ私を直視しようとはしない。

 私はわざとさらに体を寄せ、彼のデスクにある医学用語に興味があるふりをした。「この医学用語、とても複雑だね。私にも教えてくれる?」

 私の指が医学雑誌の表紙をなぞり、腕が彼の肩に触れそうになる。彼から伝わる体の熱と、速まる呼吸が聞こえてくるようだった。

 健一の体は瞬時に硬直し、彼は神経質に身を引いた。「君には面白くないと思う。とても無味乾燥な内容だから」

「夫の興味があること全てに、興味があるの」私は背筋を伸ばし、意味ありげな視線を彼に送った。

 健一はようやく私を見上げた。その瞬間、彼の瞳に何か複雑な感情が宿るのを見た。だが、それが何なのかは分からなかった――苦悩? 自制心? それとも、邪魔をされた専門医としての、ただの無力感?

 次の瞬間、彼は再びあの理性的な仮面をかぶり直した。「夜食をありがとう。まだ片付けなければならない仕事があるんだ」

 またしても、回避。

 だが、彼が話している間、固く握られた拳に青筋がくっきりと浮き出ているのに気づいた。

 これは、仕事を邪魔されたことへの怒りなのか、それとも単なる仕事のストレスなのか?

 まだ答えは出ない。

 三日目の朝、私は体にぴったりとフィットした黒いトレーニングウェア姿でジムに現れた。

 鏡張りの壁が空間全体に光を増幅させている。私は意図的に最も体のラインが美しく見えるウェアを選び、ヨガマットの上でストレッチを始めた。これらのポーズが……誘惑的だは分かっていた。

 六時二十五分、健一は時間通りにジムの入り口に姿を見せた。

 私を見た瞬間、彼の足取りは明らかに乱れた。

 鏡越しに彼の反応をうかがったが、それが何を意味するのかは判断できなかった。

「あら、こんなに早くからトレーニングしているなんて、思わなかったわ」私は驚いたふりをして顔を上げた。

 健一は平静を装い、ランニングマシンの方へ歩いていく。「いつもこの時間に運動しているんだ」

 しかし、彼がわざと私から一番遠い器具を選んだことに気づいた。

 私を避けているのか、それとも単に私のトレーニングの邪魔をしたくないだけ?

「このマシンの使い方が分からないの。教えてもらえないか?」私は筋力トレーニング用の器具を指さし、わざと頼りなげな表情を作った。

 健一の視線が鏡の中の私を一瞬捉え、すぐに逸らされた。「パーソナルトレーナーに聞いてくれ。彼らの方が専門的だから」

「でも、あなたに教えてもらいたいの」私は立ち上がり、マシンの方へ歩み寄った。「ほんの五分だけでいいんだ」

 鏡の中で、健一の反応が見えた――ランニングマシンの手すりを、指の関節が白くなるほど強く握りしめている。

 しかし、これは単に彼が人に断るのが苦手だからか、それとも純粋に私の要求を面倒に感じているからか?

「……朝の会議の準備があるんだ」彼はジムから逃げるように去っていった。

 私は鏡の前に立ち、健一の慌ただしい姿が戸口の向こうに消えていくのを見つめていた。

 心臓は高鳴っていたが、今回は興奮からではなかった――苛立ちからだ。

 三度の試み、三度の回避。しかし、回避されるたびに、私の混乱は深まるばかりだった。

 握りしめられた拳に浮き出た青筋、眼鏡を直す小さな仕草、意図的に逸らされる視線――これらは一体何を意味するというの?

 私が考えすぎているだけ?

 もしかしたら、彼はただ礼儀正しい医者で、誰に対しても習慣的に専門家としての距離を保っているだけなのかもしれない。

 彼の緊張は、単に私の行動が彼を不快にさせ、私たちの間の取り決めに違反しているから?

「ああ、薫」私は鏡の中の自分に語りかけた。「あなたは本当に考えすぎているのかもしれないわ」

 しかし、心の中のもう一つの声が反論した。それなら、なぜ彼は毎回あんなに緊張するの? なぜ避けるの?

 考えれば考えるほど、混乱は増していく。佐藤健一は本当に私に心を動かされていないのか、それとも意図的に距離を置いているのか?

 そう思うと、私は唇を噛んだ。

 これら三つのテストで明確な答えが得られなかったということは、もっと直接的なアプローチが必要だということだ。

 健一が、どんなものであれ、本当の反応を見せるように仕向けなければならない。

 たとえそれが私の心を打ち砕くことになったとしても、答えを知る必要があった。

 突然、完璧な計画がひらめいた――医者としての健一が「患者」を無視できないのなら、彼が私に近づき、世話をせざるを得ない理由を与えればいい。

 仮病を使うのだ。

 その考えは私を興奮させると同時に、恐怖させた。もし私が病気になっても彼が冷淡なままなら、彼が本当に私に何の感情も抱いていないことの証明になる。でも、もし彼が心配してくれたら……。

 私はこの賭けに出ることにした。

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