第8章

振り返り、私はソファに向かって歩き出した。さっきまであのオフィスデスクに押し付けられていたのが自分だなんておくびにも出さない、落ち着き払った足取りを意識して。

「つまりね」私は彼を振り返った。「河合先生からあなたの気持ちは聞いてるってこと。この取り決めが全部、あなたのアイデアだったことも知ってるわ」

ドサッ!

彼の手から医学雑誌が床に落ちるのを見て、私は密かに胸がすく思いだった。健一の顔は、途端に紙のように真っ青になる。「なにを……海人は君に何を言ったんだ?」

「八歳の時からの片思い、私のために大学の研究奨学金を断ったこと、毎晩私の映画を観ないと眠れないこと……」私は一言一言区...

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