第1章
「ガードを固めろ、誠! 左手が下がってるぞ!」
額の汗を拭いながら、十四歳の誠がヘビーバッグにコンビネーションを叩き込むのを私は見ていた。フォームは良くなってきているが、そのパンチはまるで招待状でも送るかのように、動きが読まれやすかった。
「よくなったぞ」と声をかけ、時計に目をやる。六時半。そろそろ終わりにする時間だ。
東日野市コミュニティフィットネスセンターは、お世辞にも立派とは言えない。ひび割れた鏡、継ぎ接ぎだらけの器具、雨が降れば水が漏る屋根。だけど、ここが私の居場所だった。この子たちは、たとえ本格的なトレーニング料を払えなくても、私の子どもたちだった。
「よし、みんな! 今日はここまでだ」
リングの周りに散らばったグローブを集め始めたとき、あるものに気づいて私は凍りついた。
出入り口に、完璧に仕立てられたスーツを着た男が立っていた。
相沢啓一。
私の、夫。
剥げかけたペンキと使い古された器具を背景に、彼だけが完全に浮いていた。彼が着ているチャコールグレーのスーツは、おそらくこのジムの三ヶ月分の収益より高いだろう。高価な腕時計から完璧に整えられた黒髪まで、彼のすべてが金と権力を叫んでいた。
「相沢さん?」誠が私たちを交互に見て、戸惑った顔をしている。「この人、知ってんの?」
「うん」と私は答えた。自分でもおかしな声だと思った。「迎えに……来てくれたの」
私はバッグを掴み、啓一の方へ歩き出した。自分がどんな格好をしているか、痛いほど自覚していた。汗まみれのスポーツブラに、古びたジム用のショートパンツ。ポニーテールからは髪がはみ出している。彼の隣に立つ私は、まさにありのままの姿――彼の世界に属するふりをしている、どこから来たとも知れない娘――にしか見えなかった。
「準備はいいか?」と彼が尋ねる。その声は丁寧だがよそよそしく、仕事相手に話すときとまったく同じ口調だった。
「ええ」
帰り道は、いつものように沈黙に包まれていた。
啓一の車の助手席に座り、高級住宅街が流れていくのを眺める。
私たちはもう二十二ヶ月も、この茶番を続けている。彼は時折、職場に私を迎えに来て、同じ家で夕食をとり、そして別々の寝室で眠る。まるで夫婦というより、ただのルームメートのようだ。
彼をそっと盗み見る。彼の顎はこわばり、ハンドルを握る手には必要以上に力が入っていた。何かがおかしかった。だが、そもそも相沢啓一という男が分かりやすい人間だったためしはない。
「今日一日、どうだった?」沈黙が気まずくなってきたので、私は尋ねた。
「別に」
いつものことだ。
家に戻ると――婚姻届に何と書かれていようと、ここは私たちの家ではなく、彼の家だった――私はまっすぐキッチンへ向かった。私たちの決まりごとは単純だ。私が自分の食事を作り、彼は書斎に消え、朝までお互いをうまく避けて過ごす。
けれど今夜、啓一は書斎に消えなかった。
代わりに、彼はリビングのソファに腰を下ろし、ただ……私を見ていた。
冷蔵庫から残りのパスタを取り出す。彼の視線が突き刺さるのを感じて、過剰に意識してしまった。これは初めてのことだった。結婚して二十二ヶ月、啓一が私の夜の習慣に興味を示したことなど一度もなかった。
「少し食べる?」私はタッパーを掲げて尋ねた。
「いや、結構だ」
私は夕食を温め、キッチンアイランドの椅子に座った。彼が立ち去るだろうと思っていた。だが、彼は動かなかった。
「帆夏」
驚いて顔を上げた。彼が私の名前を呼ぶことは滅多にない。
「残りの時間は、あとどれくらいだ?」
私は瞬きをした。「え?」
「あと、どれくらい残っている?」
ああ。契約のことか。それなら納得がいく。啓一はしょせんビジネスマンなのだ。私が去るときの引き継ぎがスムーズにいくよう、先々の計画を立てているのだろう。
「あと二ヶ月くらい」と私はパスタを一口食べながら言った。「心配しないで。もうすぐいなくなるから。契約が終わるときに、迷惑はかけないわ」
啓一の顔に奇妙な変化が起きた。血の気がさっと引き、一瞬、私が誰かの死を告げたかのような表情になった。
「二ヶ月か」と彼は静かに繰り返した。
私は頷き、彼の表情を探った。彼と知り合ってからずっと、啓一が……脆さを見せることなど一度もなかった。彼はいつも冷静で、完璧に自分を保っていた。だが今、彼は怯えているようにさえ見えた。
一体、何が起きているのだろう?
すべての始まり前のことを思い返した。父の事故の後、私は借金に溺れていた。母の病状が悪化する一方で、医療費の請求書は山のように積み上がっていく。葬儀費用に千五百万円、保険で賄いきれない借金がさらに一億円、そして母の糖尿病の薬代だけで月五十万円。
二十三歳にして、私は完全に詰んでいた。
そんな時、啓一の秘書が、これまで聞いた中で最も馬鹿げた提案を持って私に接触してきた。結婚契約。十八ヶ月、後に二年間に延長された。前金で八千万円、契約終了時に一億二千万円。私がすべきことは、彼の妻役を演じ、彼の邪魔をしないことだけ。
秘書は期待されることについて、非常に明確に説明した。「これは純粋なビジネスです」と彼女は言った。「相沢様はご自身のパブリックイメージを向上させる必要があります。あなたには安定と慈善活動の実績を提供していただきます。恋愛感情など、お持ちにならないように」
持つわけがない。相沢啓一は、私とは住む世界が違いすぎた。相沢グループの代表で、プロスポーツ界で最も力を持つ男の一人。彼のクライアントには日本代表選手やオリンピックのチャンピオンが名を連ねる。私は短期大学を卒業したのが最大の功績という、田舎町の娘だ。
その金はすべてを解決してくれた。母の治療費、借金、そしてコミュニティセンターを始めるのに十分な余剰金まで。私にとっては最高の取引だった。
だが今、奇妙な表情を浮かべた啓一を見ていると、私は何かを見落としているのではないかという気がしてきた。
「帆夏」と、今まで聞いたことがないほど柔らかな声で、彼が再び言った。「この最後の二ヶ月で……何かしたいことはあるか? 何か特別なことは?」
私は眉をひそめた。「どういう意味?」
「叶えたい夢とか、行きたい場所とか、ずっと試してみたかったこととか」
これは間違いなく未知の領域だった。この数ヶ月、啓一が私の夢や望みについて尋ねたことなど一度もなかった。私たちの関係は純粋に取引だったのだから。
「分からないわ」と私は正直に答えた。「旅行はしてみたいと思ってたけど。オーストラリアを見るとか、話してた国際コーチングの資格を取るとか、かな」
啓一の目に、私には判別できない何かがちらついた。痛み? 安堵? 分からなかった。
「あなたは?」と私は尋ねた。会話が奇妙な方向へ向かい、沈黙を埋める必要があったからだ。「これが終わったら、何か計画でもあるの?」
彼は答える代わりに、突然立ち上がった。
「食事の邪魔はしない方がいいな」と彼は言ったが、いつものように書斎へ向かうわけではなかった。
彼はただそこに立ち、今まで見たことのない表情で私を見ていた。まるで私の顔を記憶に刻み込んでいるかのように。
「啓一? 大丈夫?」
「問題ない」と彼は素早く言った。あまりに素早く。「私は大丈夫だ」
だが、彼は大丈夫ではなかった。何かが、とても、とてもおかしかった。
「最後の質問だ」と、ようやく背を向けて立ち去ろうとしながら、彼は言った。「この先の二ヶ月……ずっとやりたかったことはあるか? 何か、最後の願いは?」
最後の願い?
なんて奇妙な言い方だろう。
私は彼が歩き去るのを、パスタも忘れて見つめていた。相沢啓一は私にとって常に謎だったが、今夜は違う感じがした。今夜、何かが変わってしまったような気がする。そして、それが何なのか私にはまったく分からなかった。
家の中が、急にひどく静かで、ひどく冷たく感じられた。
私は一体、何を見落としているのだろう?
