第7章
「紗良……」
成瀬耀の手首にある痛々しい切り口から、鮮血がどくどくと溢れ出していた。ポタポタと床を叩く不快な音。鼻をつく濃厚な鉄の臭いが、部屋中に充満していく。
しかし彼は痛みなど感じていないかのように、ただ呆然と、それでいて何かに取り憑かれたような瞳で、虚空に浮かぶ私を見つめていた。
「やっぱり、あの噂は本当だったんだな。人は死に際になると、心から会いたいと願う人が見えるってやつ」
焦点の定まらない瞳が、それでも私を捉えている。その眼差しは、まるで母親にはぐれた子供のように心細げだ。
「紗良、会いたかったよ……」
宙に浮かんだまま、私はかつて愛し、今はただ吐き気をもよお...
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