第35章 気に入った家

丸顔の少女は口を押さえ、小声で笑いながら言った。「看護師の専攻だったんですけど、学校を卒業しても学歴が低くて、大きな病院は人脈がないと入れないし、小さな病院だと田舎に戻りたくなくて。せっかく都会に残れたんだから、ここでしっかり頑張って、いつか胸を張って故郷に帰りたいなって。でも結局、専門を活かせる仕事が見つからなくて、不動産の営業をすることにしたんです」

石川明美はその話を聞き、似た者同士の感情が胸に湧き上がった。二人とも都会の出身ではなく、この大都市で足場を固めるために、人並み外れた努力をしてきたのだ。「『生まれながらにしてローマにいる人もいれば、一生ローマを目指す道を歩む人もいる』、間...

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