第10章 そこまで大きな魅力はない

伊沢婆さんは外から入ってきた人影を認めるなり、腹の底から怒りがこみ上げたらしく、いきなり怒鳴りつけた。

「よくもまあ、帰ってこれたわね?」

伊沢赤司はそんな態度にも別段腹を立てる様子はなく、視線だけをソファに座る綾部栞へ向ける。

「迎えに来た。彼女を連れて帰る」

伊沢婆さんは一度、ぐっと息を沈めたものの、不機嫌そのままに彼を睨みつけ、綾部栞の手を取って引き寄せた。

「栞。今夜、帰りたくないなら――お婆さんのところに泊まりなさい」

返事をするより早く、男の深い瞳が墨を流したように暗くなり、その奥に微かな警告が差した。

ここに残ると言えば、赤司は身動きが取れない。

佐野小雪は明日...

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