第107章 綾部栞がJX病院に入職

林田は、伊沢赤司が去っていく背中を見送りながら、顔に一瞬ぽかんとした色を走らせた。

何年も「若奥様」と呼び続けてきたのだ。いきなり呼び方を変えろと言われても、すぐには馴染めるはずがない。

赤司が厨房を出ていくと、林田は小さく息を吐き、また包丁を握り直して調理を続けた。

脇で下ごしらえを手伝っていた栄養士は、伊沢婆さんが足を悪くしてから本宅に入った人間で、綾部栞とは面識がない。だからこそ、つい好奇心が勝ってしまったのだろう。

「林田さん、綾部家の次女様って……本当に若様の奥様だったんですか?」

林田は一度、喉の奥で息を沈めた。表情には、どうしようもない無念さと寂しさが滲む。

「ええ...

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