第115章 おじさん

綾部栞は、どこか陰りのある伊沢赤司の顔をひと目だけ見てから、声を落として綾部玉季に言った。

「私のオフィスに行こう」

綾部玉季はうなずく。

「うん」

返事はあっさり。彼女は妃奈ちゃんを抱き上げると、そのまま伊沢赤司の病室を出た。

妃奈ちゃんは綾部玉季の腕の中でおとなしくしていたが、伊沢赤司の視線が自分に向いたと分かると、ぱっと小さな手を上げて振った。

「おじさん、ばいばい」

綾部玉季は思わずぷっと吹き、こらえきれず笑ってしまう。ちらりと伊沢赤司を見やると、ベッドに横たわる男の顔色はひどく陰鬱だった。

妃奈ちゃんもそれに気づいたらしく、きゅっと肩をすくめて伊沢赤司を見上げ、綾部...

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