第120章 彼女こそが道具だった

伊沢赤司はそう言い捨てると、脇のソファへ歩いて腰を下ろした。

桜井蝶は露骨に不満げに、こつんと軽く足を鳴らしてから同じくソファへ向かい、伊沢赤司の隣に座る。腕を組んだまま、綾部栞のいる方へちらりと視線を飛ばした。

「赤司。まさか……元奥さんのことが気になって、私と踊りたくないとか?」

ソファの男が彼女を一瞥する。墨を流したように黒い瞳が、わずかに警告の色を帯びた。

「くだらないことを言うな」

桜井蝶は「ふん」と鼻を鳴らす。不満はあるが、これ以上踏み込む度胸はない。

伊沢赤司の隣で大人しく座りながらも、視線だけはふわり、ふわりと綾部栞へ吸い寄せられていく。

――だって、彼の前妻だ...

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