第123章 彼女の傷はそれほどひどくない

木下輔佐が前方でハンドルを握り、ルームミラー越しに外をちらりと確認する。伊沢赤司の車が、ずっとこちらの後ろに張りついていた。思わずアクセルを踏み込み、速度を上げる。

綾部栞はその変化に気づき、妃奈ちゃんを抱く腕に、きゅっと力を込めた。

「どうしたの?」

小さく問いかける。

木下輔佐は声を落として答えた。

「伊沢社長の車が、後ろに」

綾部栞は振り返る。やはり、伊沢赤司の車だ。木下輔佐がルートを変えても、相手は慌てるでもなく、一定の距離を保ってついてくる。

眉間を指で押さえ、ひと息。落ち着いた声で言った。

「放っておいて」

その一言で木下輔佐も焦りを引っ込め、速度を緩めた。

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