第125章 彼は綾部栞を落とせてない

なぜだろう。綾部栞に会いたいという衝動が、ふいに脳内で狂ったように増殖した。

「綾部家へ行け」

伊沢赤司が冷えた声で命じる。

坂東補佐は即座にエンジンをかけ、綾部家へと車を走らせた。

速度を上げていく途中、綾部家の門前が見えた瞬間――遠目にも、綾部栞が玄関先に立っているのが分かった。

手には妃奈ちゃんの小さな手。そこへ黒いワンボックスがすうっと寄せて停まり、宮本西衛が降りてくるなり、二人のもとへまっすぐ向かった。

まず栞を両腕で抱きしめ、それから妃奈ちゃんも抱き上げるように抱きしめる。

坂東補佐は速度を落とし、ルームミラー越しに伊沢の顔色をうかがってから、控えめに声をかけた。

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