第128章 彼の罠に落ちた

綾部栞は、いまの彼の様子を見ていると少しだけ心がほどけた。結局、何も言わずに彼の腕の中へ身を預け、いちばん楽な位置を探して落ち着く。

「早く寝て」

低く、重たい声。恨み言がほんの少し混じっていた。

相手は酔っ払いだ。現実と夢の境目も曖昧な男に、いちいち本気で付き合う気にはなれない。空が白みはじめた頃に出ていけばいい。その時間なら、伊沢赤司はまだ眠っているはずだ。

伊沢赤司は、綾部栞が胸元へぎゅっと潜り込んできたのを感じ、心臓の奥がかすかに震えた。思わず強く抱き締め、片側の布団を引き上げて二人にかける。

栞も眠気に負けた。本当は意地でも朝まで起きているつもりだったのに、気づけばそのま...

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