第13章 彼女はほかの男を映画に誘った

綾部栞が手術台を降りたとき、窓の向こうの空はもう、どんよりと沈んでいた。

今日は2件とも長丁場だった。腹の子のことを考えて、栞は手術中いっさい気付けの飲み物に頼らなかった。終わった途端、張り詰めていた糸がぷつりと切れたみたいに、全身に疲労が押し寄せる。

重い足を引きずって自分の医局へ戻り、白衣をハンガーに掛ける。足元のロッカーからハンドバッグを取り出し、そのまま帰ろうとして顔を上げた瞬間――ドア口に、険しい顔の伊沢赤司が立っていた。

男の表情は明らかに機嫌が悪い。栞は眉をわずかに持ち上げ、淡々と尋ねる。

「佐野さん、具合が悪いんですか」

言いながら眉間を指で揉み、疲労を押し込める。...

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