第134章 綾部栞を隠したい

三年前のあの騒動で、いちばん大きく名誉を傷つけられたのは綾部玉季だった。世間が覚えているのも、結局は綾部玉季の名だけ。綾部栞は徹底的に守られていたから、彼女のことを記憶している者はほとんどいない。

唯一、うっすら残っている印象といえば――伊沢赤司と結婚していたのは綾部家の次女で、すでに離婚している、という事実だけ。

その「綾部家の次女」がどんな顔をしていたか。誰も覚えていなかった。

伊沢赤司は、壇上の綾部栞を灼けつくような視線で追っていた。彼女はスピーチの合間に、ときおり客席へ目を上げる。だが、その視線が彼の上で止まることは一度もない。

黒い瞳が、すっと沈む。

伊沢赤司の隣には北条...

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