第135章 会食

綾部栞は後部座席に静かに座ったまま、ひと言も発さなかった。木下輔佐が車を停めた気配に気づき、ふと窓の外へ視線を上げる。瞳の奥に、かすかな疑問が走った。

車が止まったのは、海天飯店の正面玄関だった。

栞は一拍置いてから視線を戻し、木下輔佐を見る。

「……どうしてホテル?」

木下輔佐はすぐに説明した。

「表彰大会が終わったあとは、例年みなさん海天飯店で会食されます。費用は伊沢グループ持ちです」

「当然ご存じかと……」

栞は、その「当然」を知らなかった。

彼女が準備していたのは、壇上でのスピーチだけ。終わったあとに食事会があるなんて、聞いていない。

「次女様、お送りしてお戻りにな...

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