第146章 彼女がお前を嫌いだからじゃないか

伊沢赤司は、底の見えない墨色の瞳で綾部栞をじっと見据えた。彼女の顔から、ほんの少しでも「傷ついた」色を引きずり出したかった。

だが――ない。

彼女は驚くほど静かだった。ゆるやかに彼を見返し、淡々と言う。

「私は医師として言っただけです。伊沢社長、落ち着いてください」

伊沢赤司は言葉に詰まった。さっきの一撃は、綿にでもぶつかったみたいに手応えがない。胸の底がすっと沈み、苛立ちが黒く湧く。

もう支えられる気にもなれず、彼は手を引き抜いた。自分で壁に手をつき、そのまま病室へ戻っていく。

子どもみたいに拗ねた背中に、綾部栞は眉をわずかに上げただけで、何も言わず後ろについた。

それから三...

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