第19章 彼女は離婚したがらないんじゃないの?

坂東補佐は車内のバックミラーをそっと窺った。

後部座席では、伊沢赤司が浅く身を預け、冷えた黒い目で一度だけ窓の外を流し見たあと、すぐに視線を戻して目を閉じていた。

ほどなくして、彼はいつもの静けさを取り戻す。さっきの苛立ちは、まるで一瞬の幻だった。

「伊沢社長、お荷物は川辺真珠様のほうへお運びしてよろしいでしょうか」

伊沢赤司は目を開け、感情の薄い声で短く答えた。

「……ああ」

パークシティ。

林田は、みるみるうちに目の縁を赤くしていく綾部栞を見て、何か言いたげに口を開きかけては閉じた。

その憐れむような視線に気づいた綾部栞は、かすかに笑う。平気なふりをするように。

「林田...

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