第29章 この子、彼女は残ることにする

身支度を終えた綾部栞は、静かに階下へ降りた。

ちょうどそのとき、坂東補佐がうやうやしく年配の婦人を伴って、客間へ入ってくるところだった。

その姿を見た綾部栞は、わずかに足を止める。

「大叔母さま」

来客は、伊沢婆さんの妹であり、伊沢赤司の大叔母――佐野文恵だった。

文恵は綾部栞を見ると、表情ひとつ変えない。返事もない。

綾部栞はそっと唇を結んだ。

伊沢赤司の大叔母は、昔から彼女をあまり好いていない。

結婚して三年。顔を合わせる機会はそう多くなかったが、それでも会うたびに、綾部栞は相手の不満を肌で感じ取っていた。

伊沢赤司がソファから立ち上がる。

すると佐野婆さんはすぐさま...

ログインして続きを読む