第32章 過去の残響

綾部栞はダイニングに入り、席について食事を始めた。

伊沢赤司は淡々とした顔で、向かいの席に腰を下ろす。

二人の空気がまた以前のものに戻ったように見えたのか、林田がそっと口を開いた。

「明日は奥様のご命日でございます」

「奥様のお教え子の方々は、毎年お墓参りにいらしているのですが」

「今年はちょうど週末にあたりますので、お婆様のお考えでは、その皆様をホテルへお招きして、お食事の席を設けたいとのことでございます。長年、奥様を忘れずにいてくださったお礼も兼ねまして」

伊沢赤司は表情ひとつ変えず、異を唱えることもなく、静かにうなずいた。

「分かった」

綾部栞の手が、わずかに止まる。

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