第65章 彼女は本当に手放した

綾部栞の瞳に、ふっと理解できない色が走った。伊沢赤司の視線を追って外へ目をやると、宮本西衛が車のドアを開け、降りてくるところだった。

栞はわずかに動きを止める。

伊沢赤司は胸の奥が詰まるように重くなった。彼女が何の反応も示さないのを見ると、鼻で小さく笑い、陰りを帯びた顔のまま大股で去っていく。

「伊沢社長」

市役所から出てきた伊沢赤司と綾部栞を見つけ、宮本西衛は穏やかな顔で声をかけた。

だが伊沢赤司は、冷たく一瞥を投げただけで何も返さず、そのまま車へ乗り込む。

ほどなくして車は市役所を後にした。

左折した車が視界から消えるのを、綾部栞は黙って見送る。

宮本西衛は市役所の入口ま...

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