第96章 伊沢赤司が綾部栞の産科健診に遭遇する

伊沢赤司は冷えきった顔のまま、携帯を坂東補佐に突き返した。

坂東補佐はおそるおそるルームミラーを盗み見る。後部座席の男は窓の外へ視線を投げ、沈んだ表情のまま――何を考えているのか、まるで読めない。

あの陰りを帯びた横顔を見れば分かる。今日は一つ間違えれば火傷する日だ。

車をガレージへ入れると、伊沢赤司はそのままドアを開けて降りた。

坂東補佐も慌てて後を追う。だがエレベーターへ向かう途中、取引先からの電話が入り、足が止まった。

伊沢赤司は振り返りもせず、ひとりでエレベーターに乗り込む。

通話を終えた坂東補佐が画面を見ると、そこには綾部栞のSNSが開いたままだった。

さっきの社長の...

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