第104章 引き返すつもりはない

突然縮まった距離が、その曖昧な空気を極限まで押し上げた。

病室の暖色の灯りが男の横顔を照らし、もともと彫りの深い顔立ちはいっそう陰影を増す。

九条雅人は彼女の腰に回した腕を、ぎゅっと強く締めた。薄い布越しに、腰の脇のきめ細かな肌の感触まで指先に伝わる。そこは温かく、霧島絢香だけが纏う匂いがした。

ほとんど一瞬で、男の瞳の奥に渦巻く独占欲が濃くなる。薄い唇が彼女の耳たぶに触れ、声は息のように低い。

「俺は後戻りするつもりはない。絢香……俺のこと、分かってるだろ」

その一言は、重い槌みたいに霧島絢香の胸を叩いた。

彼女は勢いよく顔を上げる。

「……正気じゃない! 九条雅人、離して!...

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