第112章 去っても何も言わない

九条雅人はこれ以上言う気もなく、声はいっそう冷えた。

「婚約にさえ協力してくれればいい。勘違いするな。九条夫人ぶるな」

一言一言が胸を抉り、容赦の欠片もない。

桜井陽菜の涙が、ついに堪えきれずにぽろぽろと落ちた。

傍らに控える千野秘書は、息をするのも怖いほど固まっている。

桜井陽菜はまっすぐ彼を見た。

「千野秘書、先に出て。雅人と二人で話があるの」

千野秘書は社長の顔色をうかがい、九条雅人が何も言わないのを確認してから、ようやく頭を下げた。

「承知しました、九条社長。桜井さん……失礼いたします」

そう言い残し、彼は足早に病室を出ていった。

病室には、二人きり。

桜井陽菜...

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