第63章 桜井陽菜は慌てた

彼は泣きたいのに泣けない顔で叫んだ。

「俺を見るなよ! マジで俺じゃない!」

片や完全に決裂した元妻。片や、気配だけで人を黙らせる九条雅人。

――これ、修羅場そのものじゃないか。

霧島絢香は九条雅人に視線を落とす。そこに温度は一切なかった。

「九条社長、ずいぶん余裕ですね。人の送別会にまで顔を出すなんて」

九条雅人が鼻で笑う。

「三年も夫婦だったんだ。一杯くらい、奢ってくれてもいいだろ」

その言葉が落ちた瞬間、部屋中の視線が二人に吸い寄せられた。

空気がぴんと張り詰め、触れれば切れそうだ。

霧島絢香の眉が冷たく吊り上がる。情けは一欠片もない。

「三年夫婦って、今さら言う...

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