第83章 甘やかされて育った小さな女の子

「ゆっくりね、転ばないように」霧島絢香はそう言って、そっと娘を床に下ろした。

次の瞬間、霧島初音はちょこちょこと小さな足でベランダへ向かう。

桜井誠治が慌てて手を伸ばし、彼女の横に添えるようにして守った。ぶつけでもしたら大変だ。

「初音ちゃん、気をつけて。花びらを触るだけにしようね。ほかはトゲがあるから」

小さな団子みたいな子は「くすくす」と笑い、澄んだ瞳を三日月にして言った。

「ありがとう、おじさん!」

ベランダの光景は、あまりにも穏やかで温かい。

――けれど、その一幕を、霧島家のマンション下に着いたばかりの男が、車内からすべて見ていた。

彼は降りなかった。

九条雅人はハ...

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