第119章 詩織はとっくにあなたたちの不倫を知っていた

「もう三十分も引き揚げを続けていますが、車はまだ見つかっておりません。車内にいらした奥様も行方不明のままです……」

秘書は傘を差し、長谷川遥斗の背後で頭を垂れたまま、慎重に報告した。

長谷川遥斗は欄干を握る手に力を込めすぎて、指先が白くなる。手の甲には血管が浮き上がり、ぴくりと震えた。

海面で捜索を続けるヨットを見つめ、呼吸まで荒くなる。

「詩織は……絶対、大丈夫だ」

それが自分への慰めなのか、信じ込ませるための言葉なのか、本人にもわからない。

すでに救命のタイムリミットは過ぎている。秘書にはわかっていた。仮に諏訪詩織が引き揚げられたとしても、助かる見込みは薄い。

そこへ林田美...

ログインして続きを読む