第32章 喧嘩

朝いちで牧野徹が事務所に顔を出すなり、秘書がすっ飛んできた。胃の底が重そうな顔で、恨み言でも吐くみたいに言う。

「牧野弁護士、やっと来ましたね。先生の部屋に人が来てます。先生に用があるって」

「誰だ?」

牧野徹が尋ねると、秘書は声を潜めた。

「男です。殺気がすごくて……奥さんでも取られたみたいな顔してます。とにかく、かなりヤバいです」

牧野徹は怪訝に眉を寄せ、ドアのほうを見た。秘書に手で合図する。

「わかった。君は仕事に戻れ」

ネクタイを整え、足早に廊下を進む。扉を押し開けた瞬間、ソファに腰掛ける男の姿が目に飛び込んできた。

全身を黒で固めたスーツ。彫りの深い整った顔に、隠し...

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