第69章 林田美月にはもう引っ越してもらった

「詩織」

背後から、穏やかな呼び声がした。

諏訪詩織が振り返ると、牧野徹がゆっくりとこちらへ歩いてくるところだった。

並んで立つ二人を重たげな目で見やり、そのまま詩織の隣に立つ。

牧野徹の姿を認めた瞬間、長谷川遥斗の表情がさっと曇った。警戒心をむき出しにして睨みつける。

「ほんと、しつこいよな。どこにでもいる」

男同士だ。遥斗には、牧野徹の狙いが手に取るようにわかる。

自分が詩織を誘えば「忙しい」と断るくせに、牧野徹の誘いなら出てくる――そう思うだけで腹の底がざわついた。

牧野徹は眉をわずかに上げ、端正な顔に薄い嘲りを浮かべる。

「俺と詩織は仕事で来てる。そっちは?」

遥...

ログインして続きを読む