第80章 腹黒い

諏訪詩織がパトカーを降りた瞬間、警察署の出入口に立つ男が目に入った。思わず、息が止まる。

長谷川遥斗も彼女の視線を追い、低い声で言った。

「……お前、なんでここにいる」

牧野徹は諏訪詩織から視線を外し、長谷川遥斗を淡く一瞥する。

「これだけ大きな騒ぎになったら、知らないほうが難しい」

少し遅れて来ただけで、「諏訪詩織が人を突き落とした」という話はもう耳に入っていた。

誰が通報したのか――警察はすでに現場へ向かい、詩織が署に連れて来られる可能性は高い。そう踏んで、先回りして待っていたのだ。

牧野の姿を認めた途端、詩織の胸の奥がふっと落ち着いた。唇をわずかに持ち上げる。

「私は平...

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