第97章 戻れなくなった私たち

不眠も、不安もなかった。諏訪詩織は驚くほど穏やかに、ぐっすり眠れた。

朝早く目が覚めると、身体が軽い。階段を下りてダイニングへ向かった瞬間、そこにいるはずのない男の姿が目に入った。

長谷川遥斗。

今朝届いていた林田美月のメッセージから考えれば、本来なら彼は彼女のところにいるはずだ。なのに、こんな早い時間に戻っている。どうにも不自然だった。

「詩織、起きたのか? お前の好きなもの、作らせた」

遥斗は穏やかに手招きし、甘やかすような笑みを浮かべる。

事情を知らない人間なら、気遣いのできる夫だと信じてしまうだろう。

詩織はわざわざ暴く気にもならず、黙って彼の向かいの椅子に腰を下ろした...

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