第110章

「病院へ行くぞ」

 彼はそう言って、エンジンをかけようとした。

「いいえ、見た目ほど酷くないわ。中まで傷ついてないもの」私は拒絶した。「帰って冷やせば治る」

 彼の手が私の肩に置かれる。避けようと身を捩ったが、彼は私の肩頭を強く掴んだ。力はそれほど重くないものの、そこには拒絶を許さない強引さがあった。

「じっとしてろ」

 彼は低く呟くと、車内の小物入れから小さな薬箱を取り出し、消毒綿と軟膏を取り出した。

「少し沁みるぞ、我慢しろ」

 私は呆然と彼を見つめた。彼が軟膏の蓋を回し開け、指先に少し絞り出し、それを慎重に私の首筋へと塗り広げる様子を。

 その動作は意外なほど優しく、普...

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