第30章

彼が身を離した途端、さっきまで胸の底で燻っていた欲望は、跡形もなく霧散した。残ったのは、どこかざわつく暗い波だけ。

私は乱れた服の裾を軽く引き下ろし、そのまま階段の踊り場まで出て、下を覗き込む。

踊り場の角に、後藤佳奈が座り込んでいた。膝を両手で押さえ、小さな顔をぐしゃぐしゃに歪めて、実に見事な泣きっぷりを披露している。

後藤辰和が慌てて駆け寄り、眉をきつく寄せて身を屈め、様子を確かめようとしていた。

そのとき、どこから湧いて出たのか、早乙女星奈が飛び込んでくる。取り乱したような顔だ。

「佳奈、大丈夫? どこ打ったの? 痛くない?」

彼女は小走りで佳奈の元に駆け寄り、しゃがみ込む...

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