第64章

時間が刻一刻と過ぎていく中、誘拐犯が苛立ちを露わに急かした。

「ぐずぐずするな、金を出せ。早く選べ」

後藤辰和は一度目を閉じ、再び開いたとき、その瞳には凍りつくような決意だけが残っていた。迷いは微塵もない。

彼は私を真っ直ぐに見つめ、いつになく断固とした声で言った。

「寧凪。佳奈を助け出したら、必ず君も助ける」

その言葉を聞いても、予想していたような激しい悲しみは湧いてこなかった。むしろ、心は凪のように静かだった。

子供を優先するのは当然だと頭では分かっていても、やはり傷つかないわけではない。

切り捨てられるというのは、どうしたって苦いものだ。

私は口の端を歪め、冷ややかな笑...

ログインして続きを読む