第76章

ドアに背中を預ける。指先は氷のように冷たい。さっきの揉み合いでぶつけた肘が鈍く痛むけれど、身体の疲労よりも、心の奥底から湧き上がる倦怠感の方が、まるで潮満ちる海のように私を溺れさせようとしていた。

後藤辰和はそこに立ち尽くしていた。纏う空気は恐ろしく重く、薄い唇は冷酷な弧を描いて固く結ばれている。長い沈黙。

それは怒鳴り合いよりも遥かに息苦しいものだった。

後藤家に嫁いでから起きた数々の出来事。それら一つひとつが、体にまとわりつく泥沼のようだった。振り払うことも、洗い流すこともできず、ただただ息が詰まる。

「もう一度言ってみろ」

後藤辰和はようやく反応したかのように、掠れた声で言っ...

ログインして続きを読む