第430章 小島の住所

村上香奈が目を覚ましたのは、豪奢なホテルのベッドの上だった。

身分証ひとつ持たない自分が、本来こんなきちんとした場所に足を踏み入れられるはずがない。安宿に身を潜め、鈴木七海の動きを影から窺うだけ。近づく資格すらなかった。

それでも、村上香奈は小島へ戻ろうなんて一度も思わなかった。子どもの頃から、苦しい暮らしは嫌というほど味わってきたのだ。

いまは――腹いっぱい食べられて、暖かい服を着られて、殴られもしない。それだけで、彼女にとっては十分すぎるほど楽な日々だった。

しかも、ここには黒田星奈という狂った女もいない。

心底、気が楽だ。

ただ、少しだけ物足りない。

いつになったら鈴木七...

ログインして続きを読む