第519章 子どもの存在

女がふいに腹を押さえた。佐藤奈須の表情が一瞬で強張る。

わたわたと足がもつれそうになりながら駆け寄り、声を荒らげた。

「ど、どうした……腹……子ども……七海ちゃん、大丈夫か?」

同じ問いを何度も繰り返し、慌ててスマホを探る。

「焦るな、いま救急車呼ぶ。賀数安纪にも連絡して、一緒に——」

鈴木七海がすっと手を伸ばし、佐藤奈須の手首を掴んで止めた。行き場を失った一連の動きが、そこでぴたりと途切れる。

顔色は悪くない。苦痛の色もない。

呆れたように、けれどどこか優しく言った。

「少しはいいほうに考えてくれない? いまのは胎動よ。わたしもこの子も、なんともないから」

「……胎動?」...

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