第110章

「いや」

 鷺沢雪紘は彼女の冷ややかな横顔を一瞥し、胸の奥に苦いものが広がるのを感じた。

「証言を覆すべきじゃなかった」

 彼は言った。

 水無瀬柚季には理解できなかった。

「どういうこと?」

 まさか、あの無実の罪を背負ったまま一生を終えるつもりだったというの?

 鷺沢雪紘は低い声で言った。

「たとえ証言を覆しても、俺が三年の懲役を終えた事実は変わらない」

 今さら事実を明らかにしたところで、水無瀬柚季の父親を再び刑務所に送るだけのことだ。

「潔白を証明したくないの?」

「潔白で腹は膨れない」

 鷺沢雪紘は欲しくないなどと偽善的なことは言えない。だが、彼はとっくに汚...

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