第116章

水無瀬柚季は、手すりを強く握りしめながら、漆黒の夜空を見上げていた。

 あいにくの天気で、星一つ見当たらない。

 ベランダを吹き抜ける風は冷たく、頬の感覚をすぐに奪っていく。水無瀬柚季はハッとして、もう秋に入ったのだと気づいた。

 携帯電話を取り出し、主治医の番号を表示させる。

 だが結局、通話ボタンを押すことはできなかった。

 彼女は手すりに寄りかかり、服の裾をめくり上げた。腹部の傷はもうあらかた癒えており、痛み止めを飲む必要もない。

 今必要なのは、抗うつ剤だ。

 けれど、飲みたくなかった。

 その拒絶感は根深く、薬に対する嫌悪はもはや生理的なレベルに達し、我慢の限界を超...

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