第117章

夜、会員制クラブの一室。

 椎葉櫂はソファに深く身を沈め、この世の終わりのような顔をしていた。

「おい、大将。あんたは今、一家三口水入らずで幸せの絶頂だろうに、なんで俺を呼び出してヤケ酒なんかに付き合わせるんだよ? 俺が今、フィアンセとの愛を育む大事な時期だって知らないわけじゃないだろ? こういうのは道徳的にどうなんだよ」

 本来なら今頃、婚約者の雨宮澪と甘いデートを楽しんでいるはずだったのだ。それが一本の電話で呼び出される羽目になった。

 しかも電話越しの声は地を這うような低気圧で、拒否権など存在しなかった。

 鷺沢雪紘は黙々とグラスを傾けている。

 椎葉櫂が横からグラスを奪お...

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