第190章

水無瀬柚季がふと顔を上げると、そこには心配と焦燥をない交ぜにした彼の視線があり、正面からぶつかってしまった。

 時が止まったかのように、彼女は呆然とした。

 我に返ったのは、むしろ鷺沢雪紘のほうだった。彼はゆっくりと水無瀬柚季の体を離し、低い声で言った。

「気をつけろ。君が社内で怪我でもしたら、こちらの責任問題になりかねない」

 これこそが、正しい態度だ。

 先ほどの一瞬、彼に正体を見破られたのではないかと、水無瀬柚季はヒヤリとしたのだ。

「大丈夫です。ありがとうございます」

「出口まで送ろう」

 鷺沢雪紘は表情を変えずに、右側の車輪を一瞥した。どうやらタイヤに不具合があるら...

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