第18章 彼の心は、最初から偏っている

「カツン――」

リップグロスが床に落ち、硬質な音を立てた。容器に亀裂が走り、そこから暗赤色の液体が滲み出し、純白のカーペットに小さな染みを作る。

「ああっ!」

西園寺玲奈は声を上げ、驚きと悲しみを完璧に演じ分けた表情を見せた。

「希美、どうして受け止めてくれなかったの? これ、蓮がわざわざエトワール共和国から取り寄せてくれた、限定コレクションなのに」

彼女は西園寺希美を見ると、瞳の奥に微かな勝ち誇った色を走らせたが、口調はますます弱々しくなる。

「もしかして……私の婚約写真の撮影に付き合うのが嫌だった? 迷惑だったかな? ごめんね、無理にお願いしちゃって……」

「わざと手を放し...

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