第96章 発端

橘賢治は車内へ滑り込むと、身につけたスーツの襟を正し、視線を上げた。その目は、未だその場に佇む神宮寺蓮を捉えている。

すぐさま部下がドアを閉めに走る。

その部下は腰を低く屈め、二人の巨頭が交わす視線を遮らぬよう、細心の注意を払っていた。

白地に黒文字のナンバープレートを掲げた地味な車が、音もなく動き出す。そして計算されたかのように、後部座席が丁度神宮寺蓮の目の前に来る位置で停止した。二人が直接言葉を交わせるように。

「神宮寺さん。長い付き合いのよしみで忠告しておくがね、西園寺家の泥沼には足を踏み入れないことだ」

神宮寺蓮は片手をポケットに突っ込み、悠然と笑みを浮かべた。

「ご忠告...

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