第252話

彼女の口から出たのは「婚前契約」という言葉。だが、俺の耳に届いたのは「離婚」の二文字だった。

俺は手の中の書類を睨みつけた。「どうしてだ?」

「当たり前の手続きじゃない? 偽装結婚のとき、あなたも私にサインさせたでしょ」

「その通りだ。『偽装』だったから意味があった。だが、これは違う」。耳の奥で轟音が鳴り響く中、俺の声はかろうじて言葉になった。

一体、何を企んでる? 式を挙げる前から逃げ道を用意するなんて。俺たちのことを、それほど信用していないっていうのか?

「あなた、契約書は好きだと思ってた」。彼女の声は心底不思議そうで、少し傷ついたような響きさえあった。「お互いの利益を守るためのものよ。ど...

ログインして続きを読む