第282話

信号には目立つ色が必要だった。だからアシュトンは、むき出しになっている石の側面を赤く塗るよう私に言った。

この島で化粧なんて役に立たない。だからその頼みを聞いても、別に嫌な気はしなかった。むしろ、また役に立てることが嬉しくて、少し興奮していたくらいだ。我ながら馬鹿みたいに上機嫌だった。

口紅が原型を留めないほど短くなり、最後の「S」の字を書き終えたところで、私は一歩下がって出来栄えを眺めた。

【SOS】

腕を組み、潮風を顔に受けながらそこに立っていると、ふとある考えがひらめいた。私は駆け出し、スーツケースのところまで戻ると、再び中をかき回し始めた。

円錐形の骨組みに樹皮を巻きつけていたアシュト...

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