第99話

リース・グレンジャーが私の前を歩いていた。うつむき加減で、病院のロゴが入った書類の束をぱらぱらとめくっている。

私に背を向けていたが、あのひょろりとした体躯と、わずかに猫背気味の肩は、どこにいようと見間違えるはずがなかった。

そのすぐ隣には、キャサリンがいた。

彼女の声は弾んでいた。「言ったでしょ。陽性だって。私、絶対妊娠してる! 先生もそうだって」

私は階段室のドアの近くにある案内板に目をやった。ここは産婦人科フロアだ。

後をつけようと決めるより先に、足が勝手に前へ進んでいた。面倒ごとの匂いがしたのだ。

廊下は混雑しているわけではなかったが、人通りはそれなりにある。気づかれることなく二人の後...

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