第110章 地面に押し倒される

男の声には笑みが混じっていた。しんと静まり返った深夜に、その響きはぞわりと背筋を這い上がってくる。

やはり、黒崎冬馬ではない――。

温井知夏は歯を食いしばり、怒鳴った。

「あなたなんて知らない! 今すぐ出ていって!」

言い放つと同時に、すぐさま電話をかける。

だが――圏外。

信号が入っていない。

「ねえ、子猫ちゃん。こっそり誰かに連絡してるの?」

「無駄だよ。この部屋の電波は、とっくに潰してある。誰も助けになんか来ない」

温井知夏の顔色がさっと変わった。

「どうやって入ったの!?」

六つ星ホテル。しかも警備は万全のはずだ。なのに、どうしてこの部屋のドアを開けられる?

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