第121章 罠を仕掛ける

「違う……私じゃない」温井知夏は手首の痛みをこらえ、慌てて首を横に振った。

――この人が、彼女の探している『温井拓海』なの?

「悪い奴!」

青年は彼女を睨みつける。

「お前も俺を傷つける気か!?」

目の縁が赤く染まり、今にも爆発しそうだ。温井知夏は声を落として、何度も言い聞かせる。

「落ち着いて。私は悪い人じゃないし、あなたを傷つけたりしない」

やがて青年の呼吸が少しずつ整っていく。けれど瞳には薄い涙の膜が張り、震える声で縋りついた。

「おねえちゃん……行かないで。ここにいて。俺と一緒にいて……ね?」

懇願。

あまりに哀れで、胸が痛む。

温井知夏は腹を括った。今は、とに...

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