第142章 心乱れる

ふいに、前に清水環奈にわざとぶつかられて階段から転げ落ちた光景が、脳裏に蘇った。

温井知夏はまつげを震わせ、ぎゅっと目を閉じる。

「危ない!」

背後を歩いていた黒崎冬馬が気づき、二歩で距離を詰めると、大きな手で彼女の腰をしっかり抱き留めた。

――落ちて、全身が砕けるように痛む。

そんな未来は来なかった。

代わりに知夏は、あたたかくて厚みのある胸にすっぽり収まり、息が戻っていくのを感じた。

「怖がらなくていい。もう大丈夫だ」

頭上から降ってきた低い囁きは、心の奥を撫でるみたいに優しい。

胸のざわめきがほどけ、知夏は酔いのにじんだ瞳を開けた。至近距離にある黒崎冬馬の顔を見上げる...

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